水の音が好き。
水の音が好き。
なんともいえない気持ちになる。
だからわたしは洗濯が好き。
洗濯機が動いているときの水の音がたまらなく愛おしく感じる。
静かに給水しているときの音もすてき。
洗濯できる幸せをかみしめてみる。
でも、
わたしは水に長く触れると、心が時間をさかのぼってしまう。
過去へ過去へと。
美しい水はどんどんにごり、透明感は失われていく。
決してきれいではなくなった泥水の中でわたしは泣いている。
泣いても泣いても誰も助けてはくれない。
身体のあちこちが痛い。
泥の水の中には腐った魚が浮いている。
たくさんの緑色の藻もわたしの足に絡んでいる。
美しかった水を求めてさまようわたし。
泥の沼になったわたしのきれいな水たちは、その藻を這わせてわたしを奥へ引きずり込もうとする。
でもわたしは泳ぐことが出来る。
にごった水の中でもきっと泳げるはず。
足の自由を奪われて、奥に引きずりこまれても、わたしの腕は水をかく事をやめたりはしない。
口の中に、匂いのきつい水がたくさん入ってくる。
泳いでも泳いでも、わたしの足は自由にはならない。
そのまま奥へ奥へと引きずりこまれる。
でもわたしは死にはしない。
これは夢だし、きっとこの水の中でも呼吸が出来るはず。
わたしは呼吸をしようと胸を広げて深呼吸をしてみる。
入ってくるのは苦しい苦いにごった水だけ。
そのままわたしの自由は奪われてにごった水の奥に閉じ込められる。
誰も助けてくれない。
自分で自分を助けるしかない。
そんな夢なのかフラッシュバックなのかわからない状態の中、
わたしはゆっくりと頓服を飲む。
ため息とともに、にごった水たちは少しずつ消えていく。
もとの、光が反射してきれいになった水を如雨露にとって、わたしはベランダの花たちに水をあげる。
もう大丈夫。今のわたしは花の世話をしている。
もう大丈夫。
- 作者: フランソワーズサガン,Francoise Sagan,朝吹登水子
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